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オーガニックコットンがつなぐ未来
「ふくしま潮目―SIOME―」

2016.04.17

Photo:いわきおてんとSUN企業組合
Text:Mayuko NItta

手ぬぐいが好きです。

使うほどになじんでくる肌ざわりと風合い。

たたんで持ち運んだり、ラッピングに使ったり、インテリアとして飾ったり・・・1枚で何役にもなる手ぬぐいは、日常使いからアウトドアや旅行など、様々なシーンで気軽に楽しめる粋で便利な暮らしのアイテムです。

先日、生成りの生地と、ぬくもりを感じるデザインに一目惚れした手ぬぐいがありました。

「ふくしま潮目--SIOME-- 茶綿てぬぐい」です。


使い込むほど深まる茶綿の手ぬぐい

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手ぬぐいをつくっているのは「いわきおてんと
SUN企業組合」

ゆったりとした時間が流れる里山。のどかな田園風景が広がる中にある古民家を拠点に、 コットンを有機栽培し、手間ひまかけてモノづくりが行われています。

ここ福島県いわき市では、後継者不足から遊休農地・耕作放棄地が年々増えていました。それに加えて、東日本大震災の津波による塩害と、東京電力福島第一原発事故の風評被害で、農業をあきらめる農家さんも多くいました。

そこで始まったのが「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」です。2012年春から、塩害に強く、土壌から収穫物への放射能の移行係数が非常に少ない綿を、有機栽培で育てています。そして、収穫されたコットンを製品化し販売する一連の取り組みをとおして、地域に活気と仕事を生み出そうと取り組んでいます。2013年からは種まきや収穫などの農業体験をするツアーも始まり、たくさんの人を受け入れその魅力を伝えてきました。

日本におけるコットン栽培は、明治時代中頃までは100%の自給率でしたが、現在はほぼ0%。そして、かつてはさまざまな品種の和綿が存在していましたが、そのほとんどが絶滅したとも言われています。

ここで育てられている品種は「備中茶綿」という茶綿で、他の品種に比べて綿花が小ぶりのため、ひとつの実からわずかしか収穫できないとても希少なものです。そして、この手ぬぐいの生地のように素材そのものの色から生まれる生成りのあたたかみは、染色では得ることができない茶綿ならではの特徴です。


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この「ふくしま潮目--SIOME-- 茶綿てぬぐい」をデザインしたのは、ヨウデザイン代表の伊藤陽子さん。伊藤さんも「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」に関わり、ボランティアバスツアーで数年にわたりコットン畑に通い続け、綿花の栽培にも携わってきた一人です。そこで出逢った人や風景などから、綿花やコットンボール、いわき市の海をイメージしたデザインは、どれもあたたかく、見ているだけで幸せな気持ちになります。


オーガニックという選択

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オーガニックコットン100%でできている手ぬぐいには、おてんとSUNで作られている茶綿も含まれています。

オーガニックコットンと普通のコットンとでは、そもそも何が違うのでしょうか?

収穫した綿花自体には、あまり違いはありません。

一番は環境への負荷、そして生産者の健康への影響です。

オーガニックコットンとは、3年以上化学薬剤を使っていない畑で、遺伝子組み換えされた種を使わず有機で栽培し、製品になるまでの全ての工程で化学薬品を使わないで作られたものです。そのため、水や土や空気が農薬によって汚染されることもなく、生産者の健康にも配慮された環境でつくられています。

(詳しくは http://joca.gr.jp/main/what-organic-cotton/ )

気づけば、便利さ安さ、効率などが優先され、どこかの誰かを想うことを忘れ、何事もなかったかのような日常がすぎていきます。安価で大量のモノにあふれている今、わたしたちの手にするものは、誰がどこでどのように作ったのか?

その背景を知ろうとする、自分以外に向けられた思いやり。それが「オーガニック」という選択なのです。


日本のものづくりでつなぐ

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「ふくしま潮目--SIOME-- 茶綿てぬぐい」が出来上がるまでには、たくさんの人の手と技術が必要です。

土を耕し、種を蒔き、世話をして収穫。そして、それを紡いで糸にし、織り、染めるという工程を経て形になります。

おてんとSUNで育てられた茶綿を含むオーガニックコットンで織られた生地は、注染(ちゅうせん)という伝統的な型染めで染められています。

注染は、明治時代に日本で始まった染めの技法で、職人の手でていねいに染められます。型をつけ、一枚一枚糊付けをし、30枚ほどの束にして色を注ぐことで、糊のついていない部分に色がつき、裏まできれいに染まります。職人の手作業で一枚ずつ染めるため、一つとして同じものはなく、繊細でやさしい「にじみ」「ぼかし」「ゆらぎ」といった風合いが楽しめます。

いわきおてんとSUNでオーガニックコットンの活動を支えるのは、地元いわき市出身の酒井悠太さん。

「ここで綿花を育て、手ぬぐいなどをつくってきましたが、いろいろな人の手助けがなければできません。今、なくなりつつある技術をつかって製品をつくることで、僕たちが職人さんを支える立場になりたいと思いました。」

手ぬぐいを作る際、注染で染めを行っている職人さんを福島県内で探して、何度もお願いに行き、この手ぬぐいが出来上がったのだそうです。

「加工の現場を知るとモノの選択ができるようになります。自分がこのオーガニックコットンに携わったことで価値観が変わりました。

おてんとSUNの活動をとおして、"オーガニック"の価値観を知り、選択の幅を広げてもらえたら嬉しいです。キレイごとかもしれないですが、今はこうして地方から発信していくことが楽しいです。

『ふくしまだから』ということは考えていないけど、『ふくしまだからこそ』発信できることもあると感じています。単純にいいものをつくり、それがいずれ『ふくしま』のブランドになってくれたら、それが一番いい形かな。」

言葉を選びながらも笑顔で話す酒井さんは、穏やかですがしっかりと未来を見据えた目をしていました。

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また、20162月には、株式会社ラッシュジャパン (LUSH JAPAN CO., LTD.) から、おてんとSUNが生産するオーガニックコットンを使った『Knot-Wrap(風呂敷)』も限定発売されました。

https://www.lushjapan.com/article/otento-sun-knot-wrap

人や地域や企業がつながり、支え合い、形になっていく・・・

たくさんの人の手をかり、手間ひまかけて作られているおてんとSUNのオーガニックコットン、そして「ふくしま潮目--SIOME-- 茶綿てぬぐい」は、作り手の想いをやさしく紡ぎながら、出逢う人を魅了しつづけています。

「いわきおてんとSUN」では、オーガニックコットン畑のお手伝いやワークショップなど、季節を楽しみながらいろいろな体験ができます。ぜひ一度足を運んでみてください。

 

いわきおてんとSUN企業組合

970-1152

福島県いわき市好間町中好間字川原子作17-1

Tel0246-80-0662  Fax0246-85-5978

HPhttp://www.iwaki-otentosun.jp/

Facebookhttps://www.facebook.com/iwaki.otentosun

Online shophttp://shop.iwaki-otentosun.jp/


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スペシャルリポーター 新田真由子

岐阜県生まれ。東日本震災のボランティアで東北を訪れたことを機に、2011年に愛知から東京へ引っ越す。被災地へ通いながら仕事を続けていたが、2015年より福島県へ移住し、原子力災害で避難している地域のコミュニティ事業に関わっている。プライベートでは、写真と言葉でお年寄りの方の思い出をつむぐ「ことのはつむぎという活動をしている。